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「こんばんは。隣、座りますよ。
あの、どちらまで。
へえ、それはまた、遠くまで行きますね。
ああ、いや、ね。降りる時に邪魔になっちゃあ悪いでしょ。ほら、私、通路側じゃないですか。あなたが降りる時に寝たりなんかしていたら、迷惑がかかるじゃないですか。
私ですか。それがね、奇遇なことに、あなたと同じ駅までなんですよ。
いえ、観光じゃあないんですよねぇ。何といいますか、ええ、その、仕事で。そういうあなたは。
ほお、遠くへ、ねぇ。なんだか素敵じゃないですか。私もね、一度は旅がしてみたいと思うのですが、なかなか踏み切れませんでね。まとまった休みがあっても、近場で遊ぶか実家に帰るか、でね。
おっと、すみませんね。初対面なのに、会ったばかりでこんなに喋って。
ははは、ありがとうございます。なにしろ話好きなもので。そう言ってもらえると助かります。
動きだしましたね。
新幹線って、今までも数えるほどしか乗ったことがないのですが……それだけに、子供のようにわくわくしているんですよ。だから今日はちょっと、口が普段よりもよく回るんですかね。
まあ、そうは言っても、最初から隣の席の人と話そうと思って乗ったわけじゃあありませんからね。ちゃんと、ほら、暇つぶしに本を持ってきてるんですよ。
え、あ、知ってますか、この本。いいですよね、この作家さん。
へえ、それって最新作ですよね。私は、まだ読んでないんですよ。それにしても、同じ趣味の人に出会えるなんて、嬉しいですよ。私はこの人の本の中でも、特にホラーが好きでしてね。
あ、それも読んだことありますか。あれは本当に良かったですよね。あの本を読んで、私はファンになったくらいですよ。
と、いうことは、ホラー系のお話は、結構お好きなんですか。
あれ、苦手でしたか。
いえ、ね。怖いと言いますか、面白いと言いますか、そうですね、ええと、うん、変な話がね、あるんですよ。
それじゃあ、お言葉に甘えて、喋らせてもらいますよ。
そんなに身構えられるような話じゃあありませんよ。退屈だったら寝てもらっても……。
はい、その方が、気が楽です。
早速ですが、メリーさんからの電話っていう都市伝説、知ってますか。
知ってるみたいですね。
はは、分かりますよ。今、少し怖そうにしてましたから。本当に苦手みたいですね。やめましょうか。
あ、聞きますか。
はあ、大丈夫ですか。
それで、ね。その都市伝説って、人形から電話がかかってくるじゃないですか。
私は、夜中にジョギングをするのが日課なんですけどね。見ちゃったんですよ。
何って、人形が電話をかけているところを、です。
いえいえ、本当ですって。まあ、信じてもらえないのは百も承知ですけど。作り話だと思ってもらったって、かまいませんよ。
どんな風だったか、と言いますとね。そのままなんですが、人形が電話を耳に押し当ててるんです。
人形に後姿って言うのも変かも知れませんが。後姿しか見えませんでしたが、あれは多分フランス人形っていうやつですね。ウエーブのかかった金髪だから、そう思っただけなんですけど。
しかもね、電話っていうのは、携帯電話なんですよ。あの都市伝説って、携帯電話が普及する前からあったように思うんですが……オバケの世界も、進歩してるんでしょうかね。
最初は、ただびっくりしただけだったんですが、すぐに都市伝説を思い出しましてね。怖くなって、来た道をすぐに引き返しました。
ああ、いえ。その時は、喋っているかは分かりませんでしたね。まあ、気長に聞いてやってくださいよ。
その次の日なんですが、怖いもの見たさに、その辺りまで行ってみたんですよ。
ええ、いましたよ。やっぱりその時も、すぐに逃げ帰りましたけどね。
残念ながら、声はやっぱり聞こえませんでした。距離がありましたからね。だけど収穫はありましたよ。なんだと思いますか。
ほら、最初に見た場所と、次に見た場所から考えれば、次はどの方向に現れるか、分かるじゃないですか。
次の日は、その予想をもとに探して……そしたら、案の定、いましたよ。今度は声も聞こえました。ちょっと、近づきすぎたんですよね。それでも微かに声が聞こえただけで、何と言っているか、までは分かりませんでしたが。
もちろん、逃げましたよ。三度目といっても、怖いものは怖いですからね。
それで、四度目。
行きましたよ、そりゃあ。当然、怖いですけどね。だからこそ見たくなるじゃないですか。
四度目もね、近づきすぎました。三度目よりも近くまで行ってしまったんですよ。今度は、声までばっちり聞こえました。
なんて言ってたと思いますか。
明日はあなたのおうちに着くわ。って。
はは、自分で言ってみて、寒気がしました。なんだか、すみませんね、一人で盛り上がってるかも知れませんね。
あ、五度目、ですか。
それがね、四度目っていうのが、昨日のことなんですよ。
それで、今夜はこうして、仕事のために新幹線。残酷なことを言いますが、見届けられなくて残念だって、そう思っちゃいましたね。
だけどね。
私はきっと、結末を見ることができたんだと思っています。
聞いてくださいよ。
さっき、見たんですよ。
なにって、人形を、です。
そりゃあ、今夜はジョギングなんてできませんから、玄関の前にいた、とか、そんな話じゃあありません。
さっき改札でね。
そりゃあ、乗ってきた駅の改札口ですよ。
なにって、だから人形を見たんですって。
改札を抜けてすぐのところに、あの人形が置いてありましてね。電話は持ってるみたいでしたが、耳には当てていませんでした。
それまでに四回も見ているせいかも知れませんが、さっき見たときには、あまり怖くはなかったですね。駅の構内というのは違和感がありましたし、携帯電話を持っているから、明らかにおかしいんですけどね。
また見てしまったっていうのは、正直、気味が悪いですけどね。だけど、ほっとしましたよ。
なぜって、家に行くって言っていた人形が、それまでとはほとんど反対方向の駅にいたんですよ。それって、つまり、電話をかけられていた人は助かったっていうことじゃないですか。
どうしてかは知りませんけどね。諦めたっていうことなんだと思います。
あ、すみません、喋るのに夢中で……酔いましたか、顔色が。
大丈夫ですよ、この話はこれだけです。ああ、よかったなあ、という、それだけの話なので。
大丈夫ですか、私、席立ちますよ。
違うんですか。本当に大丈夫ですか。
ところで、あの、こんな時に、こんなことを聞くのもどうかと思いますが……。
この着信音、あなたの携帯電話ですか」